山形発 地域からイノベーションを起こす学金連携システム
(2016年内閣府産学連携功労者表彰選考委員会特別賞)
山形大学を中心に、県内の12の金融機関が学金連携拠点を形成しました。地域のニーズを把握する金融機関が大学と連携し、新事業・技術イノベーション創出に向けたコーディネータ役を果たすことで、企業の経営改善を進めるなどのトータル的な経営支援を行うシステムを構築しました。「山形モデル」として全国にも波及している。「確かな目利きができるコーディネータ」を育成するプラットフォームの構築に加え、スキルアップの仕組みを整備することで、継続的な人材育成と異分野交流の活性化を実現しました。2019年までの人材育成研修受講者は800名を超えています。
山形大学産学金連携プラットフォーム(略称:YG-Plat ワイ・ジー・プラット)
1.趣旨
産学金連携プラットフォームは、大学の持つ「学術的な知」と金融機関が持つ「地域密着型の知」を結びつけることにより、新しい地域産業価値を「共創」する基盤となる人材育成を行います。そして、育成された人材が組織の枠を超えて活躍できる緩やかな連携環境を提供することを目的としています。
戦後の右肩上がりの市場拡大のなかでシェアを競う「狩猟型金融モデル」は既に限界を迎えています。21世紀における持続可能な発展と豊かさを創造するには、産業を担う企業と、知の拠点である大学等と、経済の血液を担う金融機関が連携して、ともに発展する「農耕型金融モデル」に転換していく必要があります。このモデルチェンジを担う「人材」にフォーカスしています。
2.これまでの経緯
2007年(平成19年)、現在も世話人を務める小野浩幸教授が、金融機関職員を対象とした産学連携コーディネータ人材育成研修をスタート。その時に、受講者を派遣した金融機関のトップの意向を受けて、研修受講者のうち一定条件を満たすスキルを身に着けた者だけに対して、山形大学から産学金連携コーディネータの「認定証」を授与したことが現在にいたる基盤を形成することとなった
上記の認定は認定期間1年間の更新性とし、企業支援実績のないコーディネータの更新は行わない方針を一貫して現在に至る。
2008年(平成20年)に、中小企業庁の「地域力連携拠点事業」に大学として唯一採択されたことをきっかけに、人材育成にとどまらず、中小企業支援活動を開始。大学と趣旨に賛同する地域金融機関による緩やかな連携体(プラットフォーム)を形成して、育成された産学金連携コーディネータを基盤とした中小企業支援活動を展開
2010年(平成22年)には「中小企業応援センター事業」に採択
2011年(平成23年)から、コーディネータ認定を受けた金融機関職員からの「経営者からの期待に応えられるように、もっとスキルを上げたい」という声に応えてスキルアップ研修を開始
2011年(平成23年)には「中小企業支援ネットワーク強化事業」に採択
2013年(平成25年)には「中小企業・小規模事業者ビジネス創造等支援事業地域プラットフォーム事業」に続けて採択され、プラットフォームに参加する地域金融機関の数も徐々に増え続け現在の12となった。
2015年(平成27年)に、山形県企業振興公社や山形県信用保証協会との連携が実現したことで、プラットフォームとしての企業支援回数が年間2000回を超えるようになった。(連携は2016年度まで)
2016年(平成28年)内閣府産学連携功労者表彰選考委員会特別賞授与
2016年(平成28年)から東京都荒川区の協力を得て、城北・城東地区の信用金庫を対象に人材育成研修を開始
2018年(平成30年)には青森県内の5つの金融機関を対象とした研修を開始
3.体制
4.目利き人材育成カリキュラム
①認定研修コース (8時間/日×2日×2回=4日間、全32時間)
②スキルアップ研修コース(認定コーディネータのみ受講可)(8時間/日×7日、全56時間)
5.人材育成実績
これまでの認定研修受講者数実績は、山形地区555名、東京都荒川地区99名、青森地区15名の合計669名(2019年7月現在(予定を含む))
山形地区におけるスキルアップ研修の受講者数実績は157名(2019年7月現在)(山形地区の受講実績は図を参照)
2つの研修受講者総数は826名
6.カリキュラムの特徴
① PBL(Problem Based Learning)方式による人材育成
認定研修では協力地域企業にモデルとなってもらい、その経営課題にフォーカスして研修が行われます。スキルアップ研修では、受講者それぞれが課題を抱えている支援企業事例を持ち込んで研修が行われます。常に、実践を想定して、「課題をどう掘り下げて、どのようなソリューションを提供できるか」を研修のゴールに据えています。
② 実習・演習をふんだんに盛り込んだ集中型スケジュール
研修では、受講者は4名~6名のグループに分かれ、年齢、経験、知識、所属組織にとらわれないグループディスカッションにより、課題の探索とソリューションを導き出す方法を多用します。
そのため、多くの研修で採用されている座学中心の2~3時間の研修ではなく、1日8時間、あるいは2日間連続の集中型スケジュールで、各グループ・各受講者が必ずソリューションを作成するところまで行います。
③ 技術経営学をバックボーンにした体系的かつ実践的内容
財務分析、マーケティング、経営戦略など、経営学の基礎となる内容はもとより、生産の現場を訪問しての生産管理、技術、知的財産などの無形資産の目利きなど、技術経営学(Management of Technology)の知識体系を骨格としたカリキュラムとしています。対象業種は、製造業に限りませんが、常に『現場』を大事にする目利き力の養成を図ります。
④ 未来志向中心型カリキュラム
企業の財務情報等は、過去から現在の姿を映し出したものです。企業経営者と金融機関にとっては公開された共通情報でもあります。これは、ジョハリの窓がいうところの「開放の窓」(公開情報)に該当します。研修では、この公開情報の認識・分析にとどまらず、企業内にある技術や経営力等の現場でしか見聞きできない情報の収集と分析に及びます。これらは、ジョハリの窓の「秘密の窓」(非公開情報)を現場で見聞きする能力の獲得を目指すものです。加えて、これらを統合して未来をどうデザインするかをグループワークという手法で磨いていきます。未来の姿は、場合によっては経営者自身も知覚していない「盲点の窓」あるいは「未知の窓」に該当します。研修は、経営者とともに未来像を志向できる能力の獲得をも目指した内容となっています。
7.広域展開
2007年からの山形地区に加え、2016年からは東京都荒川地区、2018年からは青森地区と、この研修に取り組む地域が広がってきています。
特に、青森地区は自治体(青森県庁)、弘前大学、青森県信用保証協会との連携による地域持続型体制による実施が始まっています。
このように、地域のやる気のある有志が結集して、山形大学と連携しながら、未来志向の目利き人材育成に取り組もうとする地域を探しています。
自らの「やる気」と「仲間」という地域基盤がある地域からの問い合わせをお待ちしています。